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┃脳卒中

脳卒中とは

脳の血管が詰まる、または破れることで脳の神経細胞が障害を受け、手足が動かなくなったり言葉が話せなくなったり、意識がなくなったりすることを脳卒中と呼びます。

脳卒中にはその発症メカニズムにより大きく3種類に分類されます。

脳梗塞 脳の血管の詰まる
脳出血 脳の細い血管が裂けて脳の組織の中に血腫(出血のかたまり)ができる
くも膜下出血 脳の太い血管にできた脳動脈瘤が破れ、脳の表面で出血する

脳卒中は、主に動脈硬化や不整脈が原因となって起こります。
動脈硬化をもたらす原因は、高血圧症・脂質異常症・糖尿病・喫煙などが挙げられています。

 

多彩な身体症状

脳卒中になると、脳内の神経細胞の一部が障害され、その障害場所によって様々な症状が出現します。

運動麻痺 手足の力が入りにくくなる
感覚障害 手足の感覚がにぶくなる
筋肉の緊張の亢進 力がうまく抜けない
注意障害 集中できなくなる
記憶障害 記憶力が落ちる
失語症 言葉が話しにくくなる

これらの症状に対して、リハビリテーションが必要といわれています。

要介護・寝たきり状態になる原因の第一位

年間150万人以上の発症者がいるといわれています。
しかし報告されていない方を含めると、その2倍ほどの発症者がいるといわれており、患者数が多い病気であることが分かります。
脳卒中を発症すると後遺症で麻痺が残る可能性が高いことから、要介護状態になる主な原因の1位となっています。

リハビリ病院での入院

脳卒中になると、ほとんどの場合、入院が必要となります。
入院期間は病院によって多少の差はあるものの、保険適応期間は発症から180日間。
その期間内で、家に帰って生活できるようにリハビリをする必要があります。
そのため、まずは「麻痺が残った状態で生活ができるようになる練習」が優先されるが多く、動作の細かい質にこだわって練習する時間的余裕がないことも多いです。
故に、麻痺自体の伸び代が残ったまま、退院を迎えてしまうことが少なくないのが現状です。

麻痺の改善はいつ止まる…?

近年、脳科学の発展に伴い、リハビリを通して障害を受けた細胞の代わりに周りの生き残っている細胞が働くことで、発症から半年以上経過しても、麻痺が変化する可能性があることがわかっています。
そのため、発症後半年を過ぎても、継続的に積極的リハビリをすることが必要です。

後遺症の残存

リハビリ病院での入院生活が終わり退院すると、リハビリを受ける環境が大きく変わります。
入院中はほぼ毎日2〜3時間のマンツーマンのリハビリが行われていますが、退院後の介護保険でのリハビリではリハビリがある日でも15分〜1時間と圧倒的に短くなります。
そのため、「退院後の状態をなるべく維持する」「現状の身体機能で生きがいを見つける」ことが目的となる傾向があります。
そのため、日常生活動作で困っていることは軽快に向かわないことも多くあります。

そもそもなぜ運動麻痺は起こる?

日常生活で困ることは、主に運動麻痺によるものが多いのではないでしょうか。
運動麻痺とは、手足を動かす命令が通る神経の道(錐体路と呼びます)の一部が障害されることで生じます。
脳梗塞や脳出血になると、その神経の道の一部が障害されるため、手足を動かそうとする命令が筋肉に上手く伝わらず、“思い通りに動かせない”という症状が出ます。

動作を制限する、運動麻痺以外の隠れた原因

実際に患者さんの“動かしにくい”という症状には様々な要因が絡んでいることが多くあります。
純粋に神経の道の障害による症状はもちろん、その時の姿勢の影響や、本当に動かしたい筋肉と逆の作用をもつ筋肉の状態の影響も強く受けます。
姿勢が悪いと、無意識に手足に余分な力が入ってしまい、手足の動きを邪魔してしまいます。
また、逆の作業をもつ筋肉の力が抜けていないと、麻痺が比較的軽くても、全然動かせないという現象も起きてしまいます。
例:肘を伸ばす筋肉を使いたくても、肘を曲げる筋肉の力が強く入ってしまい、肘が伸ばせない。
また、筋肉を使う感覚(コツ)が分からないために、本当は動くはずなのに動かせないということもあります。

運動麻痺自体への治療方法は? 最新の知見は?

運動麻痺自体への介入方法は、麻痺している筋肉に電気を流して力を入れさせる電気刺激療法や、促通反復療法(麻痺した手足の筋肉に様々な刺激を加えながら、反復して動かす方法)という特殊な治療手技を用いるなど、様々な治療法の有効性が報告されています。
最新の知見では、電気刺激療法や促通反復療法を行ったり、また、その2つを組み合わせることで、麻痺している腕や指先の動きが改善したという報告があります。

後遺症で困ることとその対策

症状をお選びください

これらの症状に対して、様々なアプローチ方法が存在します。

歩きにくい、歩けない

歩行の問題

下半身の筋肉が動けば歩けるようになる?

歩行動作は、“下半身の筋肉の動きによるもの”という単純な動作ではなく、体幹や上半身の筋肉の影響も大きく関係します。
また、歩行動作は多数の筋肉を効率良く、無意識に動かせるようになる必要があります。
そのためには筋肉の働きをコントロールしている神経系にもアプローチが必要とされています。
このように、複雑な要因が上手く絡み合わないと、良い歩行動作は作り出せません。
そのため、“歩きにくい、歩けないから、たくさん歩く練習をする”
という単純な方法では、歩行改善されないことも多くあります。
そのため、“なぜ歩きにくくなっているのか?なぜ歩けないのか?”を細かく追求していく必要があります。

歩行動作改善のために必要な考え方

身体のどこが原因となって歩きやすさを邪魔しているのか。
筋肉の硬さなのか、力の入りにくさなのか、力の抜けにくさなのか。など…
歩行動作の主となる下半身を診ることはもちろん、全身から原因を見つけて一つずつ解決していく必要があります。
歩きにくくなっている原因を一つずつ解決しながらも、たくさん歩くことで、歩きやすさと体力(持久力)の両方に対して対策ができると考えています。
以下に、歩行動作を邪魔する代表的な症状を挙げていきます。

足先が引っかかる
“歩きにくい、歩けない”の要因のひとつに“足先がひっかかる”という症状があります。
この症状の原因も多岐に渡ります。
麻痺している側の股関節の問題としては、足の付け根にある、太ももを上げる筋肉の働きが乏しいと、太ももが上がらず足先が床から離れません。
足関節の問題としては、足先を天井方向に上げる筋肉の働きが弱いと、足先が垂れ下がったまま歩行することになり、つま先がひっかかってしまいます。
それに加えて、麻痺している側の足を出す前の、“体重を支えている時期”の支え方が悪いと、足を出すときの重心の位置や、姿勢が悪くなってしまい、上に述べたような足を上げる筋肉の働きを邪魔してしまいます。
そのため、足の出し方だけでなく、その前の時期の足の支え方にも着目してアプローチをしないと、足先がひっかかるという症状は解決できません。
足もとがふらつく
“歩きにくい、歩けない”の要因のひとつに“足元がふらつく”という症状があります。
この症状の原因も多岐に渡ります。
歩行動作は、左右の足それぞれで、片足で支える時期が必ずあります。
その時期が安定していないと、ふらついてしまい、安定して歩行ができなくなります。
そのような症状がある方の場合、まずは“どのタイミングで、どのようにふらついているのか”を細かく分析する必要があります。
例えば、“膝がグラグラする”という症状は、その現象が出現するタイミングによって、原因が違ってきます。
足が床に接地してすぐに膝がグラつく場合は、お尻の筋肉や太もも全面の筋肉が原因となっている可能性が高いです。
しかし、足が床に接地し、体重がしっかりとかかった後で膝がグラつく場合は、ふくらはぎの筋肉も関わっている可能性がでてきます。
このように、“足元がふらつく”という症状一つとっても、細かく分析しないと、根本的な解決は見込めません。
そのため、“足元がふらつくから、足の力をつけるためにひたすら歩く”という方法では解決されないことも多くあります。


このように、平坦な道はもちろんですが、凸凹な道や段差など歩きにくい場所を安定して歩けるようにすることや、物を持ちながらも歩くこと、人混みの中でも歩くこと、隣の人と会話しながら歩くことなど、生活場面を想定した上で、対策をする必要もあります。
そこで初めて、「散歩ができる」「買い物に出かけられる」「歩いて旅行へ行く」など、その人の“生き方”・“生活”の選択肢が広がっていくと考えています。

治療方法は? 最新の知見は?

歩行動作改善のためには、全身を評価し、上に述べたような歩行動作を邪魔しているものに対してアプローチすることはもちろん、通常の歩行動作の練習に、電気刺激療法(麻痺している筋肉に電気を流して力を入れる方法)や、トレッドミル(ルームランナー)などの機器を併用していくことで、より効果的な練習ができる可能性があります。
最新の知見によると、電気刺激療法を実施することで、足のつま先が上がらない症状の脳卒中患者の歩行能力、全身持久力、足首の筋力が向上したという報告や、歩行動作の練習と電気刺激療法を併用することで、歩行スピードの増加を認めたとの報告もあります。
また、トレッドミルを実施することで、歩行速度の向上やバランス能力の向上、全身持久力の向上を認めたという報告もあります。
それ以外にも、エルゴメーター(自転車マシン)を使用し、強い負荷をかけることで歩行速度とケイデンス(足の回転数)の増加が認められたことや、短下肢装具を使用することで平坦な道やカーペットの上での歩行能力が向上したという報告もあります。

手で物を上手くつかめない

手・指先の問題

手先が動けば、物はつかめる?

生活場面において手で物を掴むには、指先の動かしやすさや、肘や肩の状態はもちろんですが、座っている姿勢や、その時の下半身や体幹(背中やお腹)の除隊も非常に重要です。
人間の腕は肩甲骨を介して体幹に繋がっています。そのため座っている姿勢自体が適切でないと、腕の根元である肩周囲も安定せず、結果的に手も動かしにくくなってしまいます。
そのため、手で物を上手く掴めない人に対しても、下半身・体幹・肩周りなど、全身がどうなっているか評価し、一つ一つ解決していく必要があります。

治療方法は? 最新の知見は?

様々な治療方法・治療機器の有効性が報告されています。
実際に最新の知見では、筋電誘発型(力を入れようとすると、その反応を感知して、電気刺激を加えてサポートするもの)の電気刺激療法を用いることで、脳卒中の患者の腕や指先の機能が改善したという報告もあれば、感覚が鈍くなっている患者や、空間認識能力が低下している患者に対して、日常生活において強制的に使用させる治療方法(CI療法)を実施することで、指先の細かい動きが改善したという報告、脳卒中患者の腕や指先に2週間の促通反復療法という、特殊な治療手技を実施すると、腕や指先の動きに改善を認めたという報告もあります。
それに加えて、腕や指先を使っている時に姿勢や、その時の下半身や体幹の状態も、大きく影響を受けます。そのため、安定した姿勢になるように、全身を評価・分析する必要があります。

手足の筋肉が突っ張る,力が抜けない

筋肉の問題

なぜ突っ張る?なぜ力が抜けない?

脳卒中後のこのような症状は“痙縮”と呼ばれ、筋肉のこわばりのような現象です。
指先が握ったまま開きにくい、肘が勝手に曲がる、足先が足の裏側の方に曲がってしまうなどの症状があります。
この痙縮も、運動麻痺と同様に、手足を動かす命令が通る神経の道が障害されることで生じると言われています。
そのため、運動麻痺と組み合わさって生じることが多いです。

治療方法は? 最新の知見は?

痙縮への対策は、薬によるコントロール、注射(ボツリヌス療法)、ストレッチ、電気刺激療法、温熱療法などで有効性が報告されています。
実際に最新の知見では、注射(ボツリヌス療法)を実施する前後で、筋肉のこわばりの減少と、腕や指先の動きが改善したという報告や、温熱療法後に筋肉のこわばりが減少したという報告、反対の作用を持つ筋肉に電気刺激を加えたことで、筋肉のこわばりが減少したという報告、痙縮のある筋肉に対してストレッチをすることで筋肉のこわばりが減少したという報告があります。
そのような方法加えて、痙縮がある筋肉以外の筋肉の状態も評価し、必要であればそこの筋肉の刺激を入れるなど、個別で介入していく必要があります。

再発予防

意外と高い、脳卒中の再発率

脳卒中全体で見ると、10年再発率(10年以内に再発した人の割合)は51.3%という報告があります。
つまり、脳卒中を発症した人の約半数の方が、10年以内に2回目を発症することになります。
脳卒中は再発をするたび、症状は悪化していきます。
理由は、1回目の発症により脳の一部の細胞が損傷を受けて働かなくなってしまうため、再発すると他の場所の細胞が損傷を受け、結果的に損傷範囲が広がってしまうからです。
実際に、海外での報告では、再発を繰り返すと運動麻痺などの症状が改善しにくくなること、再発した人の方が日常生活動作に介助が必要となる人が増えること、認知症が悪化することなどが言われています。
そのため、再発を防ぐことにも意識を向けていく必要があります。

脳卒中再発予防の3本柱

① 発症の原因となった病気の治療
具体的には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心臓病(心房細動)などの危険因子の治療をすることです。
これらを放置すると脳の血管はさらに脆くなり、再発率を高める可能性があります。
② 生活習慣の改善(上記の①の要因は除く)
再発予防には、食事、運動などの生活習慣そのものを改善することが必要となります。
脳卒中発症の危険因子を悪化させるような生活をしていては、再発しやすくなるのは当然です。
まずは、以下のことを意識していきましょう。
● 規則正しい生活をし、ストレスや疲労をためない。
・不規則な生活やストレスは血圧を上げるホルモンを増やしてしまいます。
・食事は1日に3回とり、食べ過ぎないようにすることが必要です。
● 水分を十分にとる
・水分が不足し、脱水となった状態では、血液は濃縮してしまい血栓ができやすくなってしまいます。
● 適度な運動をする
・定期的に無理の無い程度に運動することが大切です。
【 例 】30分の散歩(約3000歩)を週3回など
麻痺が残った身体では、体力低下に加え、動きにくさなども加わり、毎日の運動量はどうしても少なくなってしまいます。結果的に、慢性的な運動不足に陥りやすく、再発率を高めてしまう可能性があります。
上の例に挙げた“30分の散歩”も、専門的なリハビリを通して歩行能力自体を高めないと、やりたくてもできない状態になってしまいます。
日常生活をより良いものにするためにも、再発を予防するためにも、歩行能力を高めることは重要となります。
③ 薬物療法
脳卒中の中でも特に多い、脳梗塞の発症の誘引となる“血栓”ができることを防ぐための治療となります。
薬を飲んで血栓ができるのを防ぐことが必要となります。
国内の研究では、これらの血栓を予防する薬を処方された脳梗塞患者の4人に1人が、自己判断で薬の内服を中断・中止していたという報告があります。
これらの薬は再発を防ぐために重要な薬です。
処方された以上は、医師からの指示がない限り、飲み続けることが大切です。

アクセス

■福岡市営地下鉄「西新駅」徒歩5分
*[4]番出口:城南線を道なりに六本松方面へ

■西鉄バス福岡「城西橋バス停」徒歩2分
* 城南線を道なりに西新駅方面へ

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